エレベーターのリニューアル工事に関する基礎知識

本記事では、用語の違いを整理したうえで、工事方法の種類や工事の流れまで、エレベーターのリニューアルの全体像を分かりやすく解説します。

エレベーターのリニューアルとは?似た言葉の違いを整理

エレベーターの老朽化対策を調べ始めると、「リニューアル」「更新」「改修」「交換」といった似た言葉が次々に出てきて、違いが分かりにくいと感じる方も多いはずです。

これらに厳密な線引きはなく、ほぼ同じ意味で使われています。まずは下表でニュアンスをつかんでおけば十分です。

用語 一般的なニュアンス
リニューアル/更新/更新工事 設備を新しくする工事全般を指す広いニュアンスで使われる。
改修/改修工事 必要な範囲に絞って手を入れる際、部分的なニュアンスで使われる。
交換/交換工事/入れ替え 機器を新品に取り替える際、全体にも一部にも使われる。

大事なのは「呼び方」より「どこまで新しくするか」

費用や工期を実際に左右するのは、工事方法や工事範囲(全部替える/一部を残す/中身だけ替える)です。呼び方に惑わされず、「どの範囲を・どの方法で新しくするのか」という工事の中身で判断しましょう。

エレベーターのリニューアルが必要な理由

そもそも、なぜリニューアルが必要なのでしょうか。主な理由は、経年劣化・部品供給・安全基準の3つに整理できます。

経年劣化で故障や性能低下が進む

エレベーターは使い続けるうちに部品が摩耗し、故障の増加や乗り心地の悪化、省エネ性の低下が進みます。安全機能も設置当時の基準のままになりがちです。

部品の供給終了で修理できなくなる

メーカーが古い機種の交換部品の供給を終了すると、故障しても修理できなくなります。こうなるとリニューアル以外に選択肢がなくなるため、部品供給終了の案内が届いたら、早めに計画を立てることが重要です。

安全基準・法令への対応(戸開走行保護装置など)

2009年以降、新設のエレベーターには戸開走行保護装置などの安全装置の設置(※)が求められるようになりました。
古い設備の多くは未設置ですが、リニューアルの機会に安全装置を追加することで、現行水準の安全性へ引き上げられます。

参照元:国土交通省公式HP【PDF】(https://www.mlit.go.jp/common/001260262.pdf)

放置した場合のリスク

リニューアルを先送りにすると、故障や閉じ込めの増加、修理費の高騰に加え、部品が入手できず突然使えなくなるリスクが高まります。安全と資産価値を守るためにも、計画的な検討が欠かせません。

リニューアルで得られるメリット

リニューアルは費用のかかる工事ですが、その分だけ多くのメリットがあります。

安全性の向上

新しい安全装置を備えることで、戸開走行や地震・停電時のリスクに備えられます。古い設備で不足しがちな安全機能を補い、利用者が安心して使える環境を整えられるのが大きなメリットです。

省エネ・電気代の削減

近年の機種は省エネ性能が高く、消費電力を抑えられます。とくに古い油圧式からロープ式への更新では、電気代の削減効果が期待でき、長期的なランニングコストの低減につながります。

使い勝手・バリアフリーの改善

更新により、着床精度の向上や静音化、車いす対応・音声案内などのバリアフリー機能の追加も可能です。高齢化が進むマンションでは、住みやすさや資産価値の面でも大きな意味を持ちます。

防災性能の向上

地震時管制運転や停電時の自動着床装置などを備えることで、災害時の閉じ込めリスクを減らせます。防災意識の高まりを背景に、こうした機能は住民の安心に直結し、リニューアルの大きな動機になっています。

資産価値の維持につながる

エレベーターの状態は、居住者の満足度だけでなく、賃貸募集や売却時の評価にも影響します。計画的なリニューアルは、建物全体の資産価値を維持・向上させる投資としても捉えられます。

リニューアルの時期・タイミングの目安

「いつリニューアルすべきか」は、多くの管理組合・オーナーが悩むポイントです。年数と症状の両面から目安を確認しましょう。

築20〜25年が一つの目安

耐用年数から考えると、設置から20〜25年が検討開始の目安です。設置から20年を過ぎたら、すぐに工事が必要でなくても、情報収集や資金計画を始めておくと、余裕をもって備えられます。

ちなみに、法定耐用年数の17年はあくまで税務上の数字で、実際の使用年数とは異なる点に注意が必要です。

こんな症状が出たら検討時期

「故障の頻度が増えた」「部品の調達に時間がかかる」「乗り心地が悪化した」などのサインが重なってきたら、リニューアルを具体的に検討する時期です。安全に関わる不具合は、年数にかかわらず早めの対応が必要です。

エレベーターリニューアルの工事方法の違い

リニューアルの工事方法は、大きく3種類に分かれます。工期・費用・建物への影響が異なるため、特徴を理解して選ぶことが大切です。

全撤去(新設)リニューアル

既存の設備をすべて撤去し、新しいエレベーターを設置する方法です。安全性・性能を最大限に刷新できる一方、費用と工期が大きく、運休期間も長くなります。建築確認申請が必要になる場合があります。

準撤去リニューアル

レールなど再利用できる部分を残し、主要な機器を更新する方法です。全撤去より費用・工期を抑えつつ、性能を大きく向上できるバランス型で、多くのケースで有力な選択肢になります。

制御リニューアル(部分改修)

制御盤や巻上機など主要な部分を中心に更新する部分改修です。既存を活かすため工期が短く、運休期間・費用を抑えやすいのが特長です。建築確認申請が不要な範囲で行える場合もあります。

エレベーターリニューアルの工事方法の違いを比較

制御リニューアル(部分改修) 準撤去リニューアル 全撤去(新設)リニューアル
建築確認申請 不要な場合が多い 必要になる場合が多い 必要
刷新の度合い 制御盤・巻上機など主要機器を更新 主要機器のほか、かごなど主要部を更新(レール等は流用) 全体を一新
向いているケース 費用・運休を抑えたい 費用と性能のバランス重視 老朽化が著しい/全面刷新したい

エレベーターリニューアルの工事方法の選び方

工事方法は、予算・運休できる期間・建物の状態・目指す性能から総合的に選びます。費用を抑えたいなら制御(部分改修)が有利ですが、更新せずに残した部分がいずれ劣化してくるため、やがて追加の改修が必要になります。性能を大きく高めたい、建物をまだまだ長く維持したいなら準撤去や全撤去が候補です。現地調査を踏まえた専門家の提案が参考になります。

エレベーターリニューアル工事の流れ

リニューアルを進める際の一般的な流れを、意思決定の主体別のポイントとあわせて確認します。

現地調査・見積もり

まず専門業者が現地調査を行い、設備の状態から対応可否と最適だと考えられる工法を判断し、見積もりを提示します。対応できるメーカー・機種や工法は現場の状況によって変わるため、複数社に相談するのが安心です。

計画・合意形成(総会決議・資金計画)

分譲マンションでは総会決議や修繕積立金の活用、賃貸ではオーナーの判断など、主体によって進め方が異なります。費用が大きいため、長期修繕計画への組み込みと早めの合意形成が、円滑な実施の鍵になります。

工事・完了検査・引き渡し

工事は既存設備の撤去・搬入、据付・調整の順に進みます。完了後は法定の完了検査を受け、合格をもって引き渡しとなります。運休日数は工法により数日〜数週間と差があるため、工程表と運転再開の予定日を事前に確認しておくことが大切です。

工事中の住民・利用者への配慮

運休中はエレベーターが使えません。とくに高齢者や車いす利用者の負担が大きくなります。

運休の期間・時間帯や再開予定を早めに掲示・案内し、問い合わせ窓口を明確にしておくと、利用者の不安や不満を抑えられるでしょう。

エレベーターリニューアルの期間・費用について

一般的に、費用・工期は「全撤去>準撤去>制御(部分改修)」の順で大きくなります。機種や建物条件でも変動するため、正確な金額は現地調査に基づく見積もりで確認しましょう。

工期・エレベーター停止期間の目安

制御リニューアル(部分改修) 約3〜15日
準撤去リニューアル 約15〜25日
全撤去(新設)リニューアル 約25〜40日

上記はあくまでも目安です。工事期間中はエレベーターが使えないため、事前に運休期間を確認し、居住者への影響を抑える計画を立てましょう。

費用を抑えるための考え方

費用は、工法の選定・実施時期・相見積もりの取得で最適化できます。ただし、安さを優先して古い部分を残すと、早期に再劣化して追加工事が発生し、結局割高になることもあります。総合的なコストで判断しましょう。

補助金・支援制度が使える場合も

自治体によっては、バリアフリー化や防災対策としてのエレベーター改修に補助金が用意されている場合があります。対象や条件は自治体ごとに異なるため、着工前に確認しておきましょう。

リニューアルを依頼できる会社の種類と選び方

リニューアルの依頼先にはいくつかのタイプがあります。それぞれの特徴と、選ぶ際の注意点を整理します。

メーカー系のリニューアル

エレベーターを設置したメーカー(またはその系列)が対応するのがメーカー系です。自社製品を熟知し、品質や部品供給の安定性に強みがありますが、費用は比較的高めになる傾向があります。

独立系のリニューアル

独立系は、特定のメーカーに属さず、複数メーカーの設備に対応する事業者です。費用を抑えやすい一方、対応できる機種の範囲や、将来の保守・部品供給の引き継ぎに留意が必要です。対応可否は現場調査によります。

独立系で改修する場合の注意点

独立系による改修では、竣工時のメーカーに頼ることが難しくなり、将来の保守や部品調達で引き継ぎが難しくなる場合もあるため、慎重な検討が求められます。

第3の選択肢:メーカー品質×マルチメーカー対応

近年は、メーカー品質を備えながら、さまざまな既設エレベーターに対応する事業者も登場しています。弊社もその一つです。

「メーカー系か独立系か」の二択にとらわれず、幅広い選択肢を比較・検討したい管理組合・オーナーは一度相談してみてください。

エレベーターリニューアルの事例

フジテックのリニューアル商品「SMA-UP」が東芝製に採用されたエレベーターリニューアルの事例を紹介します。

参照元:フジテック公式HP(https://www.fujitec.co.jp/pickup_vol67)

物件概要

  • 導入施設名:コンフォリア高島平
  • 所在地:東京都板橋区
  • 規模:地上8階建て・76戸
  • 工事内容:エレベーター2台/制御リニューアル「スマアップ」

導入前の課題

東急不動産初のリノベーション型賃貸レジデンス「コンフォリア高島平」では、建物全体のリノベーションに合わせて、共用部のエレベーター2台の更新が検討されていました。目的は、共用部の“安全・安心”の確保と物件の資産価値の向上です。

一方で、エレベーター以外のリノベーション工事が同時に進むため、工期や運休をできるだけ抑えつつ、コストとのバランスもとることが求められていました。

採用した対策

採用されたのは、制御盤と巻上機を中心に更新する、マルチメーカー対応の制御リニューアル「スマアップ」です。既存を活かす部分改修のため、大がかりな全撤去に比べて工期・費用を抑えやすく、遠隔監視システムにも対応できる点が評価されました。

導入後の成果

ほかのリノベーション工事と並行しながらも、短期間で計画どおりに施工が完了。更新後はエレベーターの動きがスムーズになり、入居者が安心して使える状態になりました。

さらに、当初プランにはなかった「かご内天井の意匠変更(ダウンライトの設置)」が提案され、共用部の雰囲気も一新。2022年8月にリニューアルが完了し、建物は同年9月末に竣工しました。

参照元:フジテック公式HP(https://www.fujitec.co.jp/pickup_vol67)

まとめ|まず用語と工法の違いを押さえて検討を

エレベーターの安全性を維持しつつ、工事費用を抑えるには、リニューアルが必要な範囲を明確にしたうえで、適切な工事方法を選択することが大切です。

工事方法は全撤去・準撤去・制御の3種類。専門業者に相談しながら計画的に進めましょう。