マンションのエレベーターに関する基礎知識
「築20年を過ぎたあたりから、マンションのエレベーターの不具合が増えてきた」という悩みを持つ管理組合やオーナーは少なくありません。エレベーターは種類によって寿命も不具合の出方も異なり、放置すれば事故や高額な修理につながります。
本記事では、マンションのエレベーターの種類・寿命・よくある不具合から、交換(リニューアル)の流れまでを一通り整理します。
マンションのエレベーターのタイプを知る
マンションのエレベーターは、駆動方式や機械室の有無でいくつかのタイプに分かれます。寿命や不具合の傾向、交換方法も種類によって変わるため、まずは対象のエレベータ―がどのタイプかを把握することが第一歩です。
ロープ式(機械室あり)
かごとおもりをワイヤーロープで吊るし、屋上などの機械室に設置した巻上機で動かすタイプです。旧式の大きな巻上機が使われていることが多くあります。
ロープ式(機械室なし)※機械室レス、MRレス、MRL等とも表記される
機械室を持たないタイプです。巻上機を昇降路内に収めるため機械室が不要で、省スペース・省エネにつながります。2000年以降に建てられた比較的新しいマンションで多く見られる方式です。
油圧式
油圧ジャッキでかごを昇降させる方式で、機械室なしのエレベーターが登場するまでは低層の建物に多く設置されてきました。電力消費や部品供給の面で課題があり、近年はロープ式へのリニューアルが進んでいます。
管理しているマンションのエレベーターの種類を見分けるポイント
竣工年・機械室の有無・かご内の銘板(メーカー名)などから確認できます。屋上に機械室があればロープ式(機械室あり)、なければ機械室なしの可能性が高いです。まずは銘板と竣工年をチェックしてみましょう。
マンションのエレベーターの寿命・耐用年数
「あと何年使えるのか」は、管理組合・オーナー様にとって最大の関心事でしょう。エレベーターの「年数」には、税務上の法定耐用年数・計画的耐用年数・部品供給期限という3つの視点があり、これらを混同しないことが大切です。
法定耐用年数(減価償却期間)は17年
国税庁が定めるエレベーターの法定耐用年数は17年です。ただしこれは減価償却を計算するための会計上の数字であり、「17年で使えなくなる」という意味ではありません。
実際に使える年数(計画的耐用年数)の目安は20〜25年
実際に使用できる年数としては、公益社団法人ロングライフビル推進協会(BELCA)のライフサイクルコスト(LCC)評価指針で、エレベーターの計画的耐用年数(期待耐用年数)は約20年〜25年、主要機器の平均耐用年数は約20年とされています。 20年を過ぎたらリニューアルをいつ頃するのか、予算はどう準備するか等、検討し始めるのが安心です。
「部品の供給終了」は寿命のサイン
メーカーによる部品の供給終了は寿命のサインです。交換部品が手に入らなくなると、故障しても修理できない場合があります。メーカーが供給終了を予告するのは、実際の終了時期の数年前となりますので、供給終了の予告があったらリニューアルを具体的に検討するとよいでしょう。
保守・点検で寿命は延ばせる
寿命はあくまで目安であり、適切な保守・点検を続ければ、安全に使える期間を延ばすことも可能です。ただし部品供給の終了や重大な劣化には抗えません。安全性を維持するには、「延命」と「リニューアル」のバランスを見極めることが大切です。
マンションのエレベーターによくある不具合・故障
古くなったエレベーターには、特有の不具合が現れるものです。今感じている症状にどのようなリスクが潜んでいるのかを理解しておきましょう。
ドアの開閉不良・戸が閉まりにくい
「閉まりが遅い、途中で止まる、異音がする」といった症状は、戸のセンサーや開閉機構の劣化が原因のことが多く、放置すると「閉じ込め」につながる恐れがあります。
異音・振動・着床レベルのずれ
「走行中の異音や振動」、停止時に床とかごの間に段差が生じる「着床レベルのずれ」も、経年劣化のサインです。乗り心地の悪化だけでなく、つまずきによる転倒など安全面のリスクにもつながります。
停止・閉じ込めトラブル
突然の停止や閉じ込めは、利用者の安全に直結する重大なトラブルです。頻発する場合は制御系や巻上機など主要部品の劣化が疑われます。
放置は事故リスクと管理責任に直結するため、早急な点検とリニューアルの検討が必要です。
不具合の主な原因は経年劣化
不具合の根本にあるのは、部品の摩耗や電子基板などの経年劣化です。個別の修理で一時的に直っても、エレベーターの機構全体が寿命に近づいていると新たな不具合が続きやすく、抜本的な対策が求められます。
故障を早期に見つけるサイン
「以前より揺れる」「停止位置がずれる」「異音が増えた」といった小さな変化は、故障の予兆です。利用者や管理員からの気づきを拾い、保守会社と共有することで、重大なトラブルの前に手を打ちやすくなります。
古いエレベーターを放置するリスク
事故・閉じ込めと管理者の責任
老朽化を放置した結果、閉じ込めや戸開走行などの事故が起きれば、利用者の安全を損なうだけでなく、管理組合やオーナーが管理者としての責任を問われる可能性があります。日常的に戸の溝まわりを清掃する時などに、動作を確認するようにしましょう。
修理費の増加・資産価値への影響
古いエレベータ―は小さな修理を繰り返すことになり、結果的に割高になりがちです。またエレベーターの状態は、賃貸募集時の印象や売却時の評価にも影響します。安全性と資産価値の両面から、計画的な更新が有効です。
マンションのエレベーターに関する法律・点検のルール
マンションのエレベーターは、法律に基づく点検・報告が義務づけられています。管理組合・オーナーが押さえておくべき基本ルールを確認しましょう。
定期検査報告の義務(建築基準法)
建築基準法により、エレベーターは原則として年1回、資格者による定期検査を受け、その結果を特定行政庁へ報告する義務があります(定期検査報告制度)。日常の保守点検とあわせ、確実に実施することが大切です。
既存不適格エレベーターとは
設置当時は適法でも、その後の法令改正で現行基準を満たさなくなった設備を「既存不適格」と呼びます。ただちに違法となるわけではありませんが、法令改正は実際に発生した事故や災害を教訓にしているため、現行基準に合っていないということは、教訓とされている不具合のリスクがある状態を意味します。戸開走行保護装置などの安全装置が未設置の場合、リニューアル時のアップデートが推奨されます。
マンションのエレベーターの保守・点検契約
エレベーターを安全に使い続けるには、保守・点検契約が欠かせません。契約の種類や内容を理解し、建物に合ったものを選びましょう。
フルメンテナンス契約とPOG契約の違い
保守契約には、大きく分けて、部品交換や修理まで幅広く含む「フルメンテナンス契約」と、点検と給油・調整が中心で部品交換は別費用となる「POG契約」の2種類があります。費用と保証範囲のバランスを踏まえて選ぶことが大切です。
遠隔監視の役割
定期的な点検に加え、近年は遠隔監視で異常を早期に検知する仕組みも普及しています。故障の予兆をいち早くつかむことで、閉じ込めなどのトラブルを未然に防ぎ、安心して利用できる環境を保つことが可能です。
保守会社は切り替えられる
保守は設置メーカー以外の会社に切り替えることも可能で、非メーカー系(独立系)への変更でコストを抑えられる場合があります。ただし、過去に重大な事故が発生した経緯から、保守点検業者の選定にあたって留意すべきチェックリストが国土交通省により策定されていますので目を通しておきましょう。
参照:昇降機の適切な維持管理に関する指針 https://www.mlit.go.jp/report/press/house05_hh_000607.html
不具合が増えたら?修理・リニューアル・交換の考え方
不具合が増えてきたら、修理を続けるか、思い切ってリニューアルするかの判断が必要です。ここでは選択肢の全体像を整理します。
修理で対応できる範囲と限界
軽微な不具合は部品交換などの修理で対応できますが、エレベータ―全体が寿命に近づくと、直してもすぐ別の箇所が故障するもの。修理費がかさむようになったら、更新(リニューアル)への切り替えを検討する時期だと考えましょう。
リニューアル(更新)という選択肢
リニューアルは、古くなった機器を新しくして安全性・快適性・省エネ性を回復する工事です。全体をやり替えるものから一部を残すものまで方法があり、建物や予算に応じて選べます。
交換(リニューアル)の3つの工事方法(概要)
- すべて入れ替える「全撤去」
- レール等を残す「準撤去」
- 制御盤や巻上機など主要部を更新する「制御(部分改修)」
それぞれ工期・費用・建物への影響が異なるため、状況に応じた選択が重要です。
費用・工期について
費用は工事方法や機種により大きな幅があります。工期についても、制御リニューアルなら数日で終わるケースもありますが、全撤去なら1か月以上かかることも珍しくありません。
交換・リニューアルを進めるときの流れ
実際に交換・リニューアルを進める際の流れを、マンション特有の合意形成も含めて確認しておきましょう。
現地調査・見積もり
まずは専門業者による現地調査を行い、設備の状態や最適だと考えられる工事方法を検討したうえで見積もりを取得します。
管理組合での合意形成・資金計画
分譲マンションでは、総会での決議や修繕積立金の活用など、住民の合意形成が不可欠です。費用が大きいため、長期修繕計画に組み込み、早めに情報共有と資金計画を進めておくことが、スムーズな実施につながります。
工事〜引き渡し・完了検査
工事は、既存設備の撤去・搬入から据付・調整へと進みます。完了後は法定の完了検査を受け、合格すれば引き渡しです。工事方法によって運休日数は数日〜数週間と幅があるため、着工前に工程表と運転再開の予定日を必ず確認しておきましょう。
工事中の住民への配慮
運休中は階段の利用が増えるため、高齢者や車いす利用者への配慮が欠かせません。運休の期間・時間帯や緊急時の連絡先を事前に掲示・周知するなど、住民への告知を丁寧に行うことが、トラブルや不満の防止につながります。
エレベーター工事会社の選び方
エレベーターの工事・保守を依頼できる会社にはいくつかのタイプがあります。それぞれの特徴を理解したうえで、対象のエレベーターに合った依頼先を選びましょう。
メーカー系・独立系の違い
依頼先は大きく、設置メーカーまたはその系列である「メーカー系」と、複数メーカーに対応する「独立系」に分かれます。どちらに依頼する場合も対象のエレベーターに対応できるかは機種によって異なりますので、実際に現地調査してからの提案を比較されることが大切です。
| メーカー系 | 独立系 | |
|---|---|---|
| 対応メーカー | 自社製が中心 | 複数メーカーに対応 |
| 品質・技術力 | 自社製品を熟知した技術者と純正部品で、品質が安定しやすい | 会社によって技術力に差が出やすい |
| 部品供給 | 純正部品を長期に確保しやすい | 汎用・他社製部品も活用(機種により対応可否あり) |
| 緊急対応・ 監視体制 |
全国的な保守網や遠隔監視の体制が整っていることが多い | 会社の規模・地域により差がある |
| 責任・情報の引き継ぎ | 保守会社が変わっても製造元として責任範囲が明確で、将来の更新にも引き継がれやすい | 独自仕様だと、工事した後の実質的な製造元が曖昧になる場合があり、保守会社の選択肢が制限される可能性がある。 |
相見積もりで確認すべきポイント
会社を選ぶ際は、複数社から見積もりを取り、費用だけでなく実績・保守体制・対応できるメーカーの範囲を比較しましょう。安さだけで選ぶと、古い部分が残って再劣化し、かえって割高になるケースもあるため注意が必要です。また、独立系が独自にリニューアルをした場合、工事会社が「製造業者」とされますので、その後に、元のメーカーに何かをお願いしたり、別の独立系に保守を切り替えることが難しくなることもありますので、先々のことまで検討して判断することが大切です。
第3の選択肢:メーカー品質×マルチメーカー対応
弊社は、メーカー品質を備えつつ複数メーカーの既設エレベーターに対応する事業者として「第3の選択肢」を創り出しました。
「メーカー系か独立系か」のいわば両極にある二択にとらわれず、ちょうどよい選択肢をお探しの管理組合・オーナーの相談先になります。
保守契約もあわせて検討する
工事会社を選ぶ際は、工事後の保守契約まで含めて考えると安心です。工事とメンテナンスを一貫して任せられる体制があれば、不具合時の対応もスムーズです。長い付き合いになる相手として、信頼できるかを見極めましょう。
まとめ|まずは自宅の対象のエレベーターの状態を把握しよう
マンションのエレベーターは、種類によって寿命や不具合の傾向が異なります。計画的耐用年数(20~25年)を目安に、不具合が増えたら早めに更新を検討しましょう。まずは管理マンション内の既設エレベーターの種類と状態の把握から始めてください。